「これって認知症?」親の物忘れで心配すべきサインと見分け方

介護がはじまる前に

「これって認知症?」親の物忘れで心配すべきサインと見分け方

「さっきも同じこと聞いてこなかったっけ……?」

久しぶりに実家に帰ったときや電話で話しているとき、親の言葉にふと胸が騒ぐ瞬間はありませんか。

歳をとれば物忘れが増えるのは自然なことです。ただ、「単なる度忘れ」なのか、「見落としてはいけない初期サイン」なのか。その境界線で多くの子世代が思い悩むことになります。

以前、認知症の方に「触れる」ということ という記事でも書いた、ある対談記事の中で、「認知症は特別な病気というより、加齢に伴う生活能力の衰え(自然な老化現象)の一つ。誰にでも起こりうることで、大騒ぎするようなことではない」という趣旨の話を目にし、深く納得したことがあります。

誰にでも訪れる自然な変化だからこそ、過度に恐怖心を抱いたりパニックになったりする必要はありません。

ただ、在宅ケアの現場で多くのご家族を見てきた経験、そして自分自身の親の変化と向き合ってきた実感から言えるのは、「忘れ方には一定のパターン(順序)がある」ということです。

今回は、慌てず冷静に向き合うために知っておきたい「注意すべき物忘れのサイン」を整理してお伝えします。

記憶は「一番新しい出来事」から消えていく

認知症による記憶障害の分かりやすい特徴は、「昔のことは鮮明なのに、さっきの出来事を忘れる」ことです。

認知症の記憶はよく「壺(つぼ)」に例えられます。

人の記憶は、人生の歩みとともに「壺の底」から順番に溜まっていきます。幼少期や青春時代の思い出は壺の深い底にしっかりと守られていますが、直近の出来事は、積み上がった記憶の「一番上の口のギリギリ」に載っている状態です。

物忘れの症状が進むと、この壺の口ギリギリにある「一番新しい記憶」から順番にこぼれ落ちていってしまうのです。

単なる度忘れなら、「昨日食べた夕飯のおかずが出てこない」
⇒ ヒントを出せば思い出せたり、「食べたこと自体」は覚えている。

注意が必要な物忘れは、「さっき昼ご飯を食べたこと自体を忘れている」
⇒ 壺の口にあった「食べた」という体験そのものが綺麗にこぼれ落ちてしまう。

ご飯を食べた記憶そのものが落ちてしまっているため、本人は本気で「まだ食べていない」と主張します。これが、最初の境界線です。

「自分が小さかった頃の思い出」をやたらと語り出す

直近の記憶が抜け落ちるのとセットでよく起きるのが、「昔の思い出話を繰り返し話す」という現象です。

「お前が小さかった頃、よくあの公園に連れて行ったよな」

「小学校の入学式のときは雨が降っていてな……」

まるで昨日の出来事かのように、自分が幼かった頃の話や何十年も前の苦労話を嬉しそうに語り出すことがあります。

子供としては「こんなに鮮明に覚えているなら大丈夫」「昔の思い出を懐かしんでいるだけ」と思いがちです。

ですがこれも「記憶の壺」で考えると納得がいきます。壺の底にしっかり残っている「昔の記憶」は鮮明に引っ張り出せる一方で、一番上の「直近の記憶」が残らない不安を無意識に埋めようとしているケースが少なくありません。

昔話を楽しく話せているかではなく、「今日何をしたか」「今何時か」といった直近の会話が成り立っているかどうかがポイントになります。

時間 ⇒ 場所 ⇒ 人の順に曖昧になっていく

記憶の薄れ方には、決まった順番(ステップ)があります。以前、ある認知症専門医の先生と話していたときにも、まさにこの順番の話を聞いたことがあります。

【第一段階(初期):時間や日付】 一番最初に怪しくなるのが「時間・日付・曜日」です。会話の中で「今日って何曜日だっけ?」「今月は何日までだっけ?」と頻繁に確認するようになったら、それは小さな信号です。カレンダーを何度も見返したり、ゴミ出しの日を間違えることが増えるのもこの時期です。

【第二段階(中期):場所の認識】 時間の感覚が薄れたあと、症状が進むと今いる「場所」が分からなくなっていきます。住み慣れた近所で道に迷ったり、自分の家なのに「家に帰りたい」と言い出したりするのがこの段階です。

【第三段階(末期):人の認識】 さらに進行すると、認識の対象が「人」へと向かいます。孫や家族の顔や名前が思い出せなくなり、最終的には配偶者のことすら分からなくなっていきます。

「今日何日だっけ?」と聞かれる第一段階は、まさに一番最初のサインです。「歳だから仕方ない」と流さず、少し意識を向けてあげたいタイミングです。

「1分以内に同じ質問」を繰り返したら黄色信号

進行具合を見極める一番分かりやすいバロメーターが、「同じ質問を繰り返す間隔」です。

「今日のお昼、何時に食べる?」と聞かれ、答えた直後——ものの1分も経たないうちに、全く同じ質問を繰り返すようになったら、短期記憶を留めておくことがかなり難しくなっています。

これは意地悪やフザけているわけではなく、「質問して答えを聞いた」という事実そのものが脳に残っていない状態です。

在宅ケアの現場でも、このパターンは珍しくありません。曜日や次の予定を何度も確認し、答えても数十秒でまた同じ質問をする。それだけ「分からないこと」が不安なのだと思います。

「1時間後にまた同じことを聞いてくる」くらいならまだ初期段階と言えますが、数十秒〜1分単位で同じやり取りが続く場合は、専門機関への相談を考え始めてもいい時期です。

しっかりしている日もある(波が大きい)

親の異変を兄弟や親族に相談したとき、意見が噛み合わないことがよくあります。

「いや、昨日電話した時は普通にハッキリ話していたよ」

「この前会った時は全然問題なさそうだったけど?」

これも初期によくある特徴で、24時間ずっと症状が出ているわけではなく、日によって状態の波が大きいのです。

調子が良いときは意識もしゃっきりしていて、以前と変わりなく会話ができる。調子が悪いときは、夕方以降や疲れているとき、環境が変わったときに一気に症状が出る。

「たまにしっかり話せるから大丈夫」と自分に言い聞かせてしまうと、準備が遅れてしまいます。「波があること自体が、脳のサインかもしれない」と捉えておくのが安全です。

環境が変わったときに波が出る方は、現場でも少なくありません。予定が急に変わるだけで、短い時間に何度も確認の電話をかけてくる。「大丈夫ですよ」と伝えても、しばらくするとまた同じ確認が届く。いつもと違うことが起きるだけで、本人の中では大きな不安が生まれます。それが、こういう形で表に出てくることもあります。

違和感を覚えたら、まずやっておきたいこと

もし親の言動に引っかかるものを感じたら、問い詰めたり「さっきも言ったでしょ!」と怒ったりするのは逆効果です。うまく記憶が繋がらない恐怖や不安を一番感じているのは、親本人だからです。

まずは、焦らず次のことから始めてみてください。

  • 気になった出来事を日付と一緒にメモしておく(例:「〇月〇日:1分間に3回同じことを聞かれた」「〇月〇日:昔話は覚えているが、昼食を食べたか忘れていた」など。後で医師や専門家に相談する際の大きな助けになります)
  • 地元の「地域包括支援センター」の場所を調べておく(まだ介護認定を受けていない段階でも、無料で相談に乗ってくれる公的な窓口です)
  • 連絡の頻度を少しだけ増やしてみる(電話やLINEの回数を少し増やし、様子の変化をそれとなく観察する)

最初にお話しした通り、認知症は決して「恐ろしい特殊な病気」というだけでなく、人が生きて歳を重ねていく中での自然な身体・生活能力の変化(老化現象)の一つでもあります。

だからこそ、必要以上にパニックになったり、悲観したりして大騒ぎする必要はありません。

少しずつ変わっていく親の姿を受け入れるのは、息子としても切ないものがありますが、早い段階で変化に気づくことができれば、お互いに無理のない形で少しずつサポートを整えていくことができます。

まずは「否定せず、大騒ぎせず、そっと見守りながらメモを取る」。ここから静かに始めてみてください。

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